必死で体勢を整えようと片腕を立て上体を起こす、冷たいタイルに爪を立てふらふらの足で
床を蹴る、それでもぐらりと崩れそうになり、慌てて抱き起そうとする悟浄
 

「いらねーよ!!」


 三蔵が差し出された手をピシャリと払いのけた、そうして彼からも背を向けると
自身を抱きしめるかの様にギュッと両腕を前で組み蹲ってしまった
彼の無言の拒絶に、悟浄の貌が強張り息が詰まる、心の奥が千切れそうで
鼻の奥がツンとする・・・・


「三蔵、オレ馬鹿だからさ・・・こんな時お前になんて声かけりゃいいんだか、さっぱりわかんねーだわ」
「・・・ならいっそ、何も喋るな!」
「それが出来たら、最初っからお前なんかと拘っちゃいねーって!!」
「なぁ、こっち向けよ三蔵」
「・・・・・・」
「なぁ・・・」
「馬鹿は、引っこんでろ!」
「引っこむかよ!・・・なぁ三蔵、頼むからさぁ・・」
「なんで、反対向くんだよ!・・・頼むから・・」
「お前の顔が、見たいんだよ」
「・・・ずずっ、」
「・・・ぐすん、」
「・・・・・・ひっく、」
「・・・・・」

「えぇっ、お前泣いてるのか!?」

意表を突かれて、思わず振り向き眼見してしまう三蔵
いつもイイ男を売りにしている、調子の良いエロ河童が
人前で泣くなんてマジ勘弁!!の、あのスケこましのあのエロ河童が
自分が背を向けただけで泣きだしたってーのか?
なんだそれ、ありえねーだろ!?
三蔵は、地味に表情を変えたぐらいで傍からみるとさっぱり
なのだが実は、かなり気が動転していた


「あ、あれ、ほんとだ何でオレ泣いてるんだろうな」
「・・・ははは、変なの」

半笑いで、涙目をゴシゴシと擦りながらごまかす悟浄に、ふうっとため息をついて

「お前、バカだろ?」


と呆れて笑った


 それからは警戒心を緩めたのか、悟浄の手によって清められるのを受け入れる三蔵
本当は、指一本動かすのも辛かったのだろう、マッサージを呼んだ湯治客のように寛いでいる
サーッと柔らかい金糸にお湯を掻けてやり、頭皮に長い指をかけゴシゴシとシャボンで泡立てた


「お客さん、どっか痒いとこありませんか〜?」
「別に」
「遠慮なく云って下ださいね〜」
「・・・大丈夫だ!」
「ふ〜ん」
「でも、まだ綺麗にしてない処がありますよね〜」
「・・・いや、大丈夫だ!」
「そのままにしてると、お腹が痛くなりますよ」
「・・・・・・」
「・・・本当か?」
「掻き出したほうが、懸命ですね」
「うむ」
「って、自分でするんかい!!」


 悟浄は、恐る恐る自分の股間に指を這わす無防備な三蔵の姿をみて、
生唾を呑み込んだ、これではまるでハラハラドキドキして舞台に齧り付く
トルコバーのエロ親父と変わんねーじゃんと泣けてくる



「うっ、うううっ・・・痛ってぇ!」
「そりゃ、傷になってるからね、痛いわな〜」
「・・・つっっん・・ん」
「おっ、白いのいっぱい出て来たね」
「だけどまだまだ、もっと指を奥まで突っ込まないとさ〜、ってかさオレ手伝おうか?」
「いらん!」
「は〜っ、つまんね」
「ふん」


「・・・あのさぁ、三蔵」
「なんだ?」
「お前さぁ、女を抱いた事とか・・・あんの?」
「はあ?」
「ごめんな、坊主が女人禁制なのはわかってんだぜ」
「でもよ、酒も博打も軽く超えちゃってるんだもんお前!」
「くだらね〜な、その言葉の底にあるもんは一体なんだ?」
「単刀直入に云え!!」
「もしもよ・・・もしお前が、真っ新な状態で男に犯されちまったんだったら」
「ちと、男として不味いかもと思ったもんでな、精神的な面で」
「どういう意味だ?」
「人を好きになるって事に、悪影響があると思うんだわオレは・・・」
「だからよさんちゃん、一度女を抱いてみる気ね〜?」
「その、行為に愛情はないけど・・・男を知っちまった以上、女もこの身で体験しね〜と」
「ゼロ地点にたてねぇと思うんだわ、オレが打って付けの娘紹介するからさ」



 しばらく無言の三蔵、悟浄から視線を外し少し考えるかのように
俯いていたが、やがて顔をあげ射抜くような強い視線で見返してきた



「困惑したキューピーみたいな顔しゃがって!」
「はぁ?」
「童貞憐れんで、世話焼いてやろうってか?」
「すっかり上から目線だな!」
「お、おい・・どうしたんだよ三蔵」
「だがな、生憎だったがその手の色事は、ウンザリ過ぎる程経験してんだよ!!」
「なんだって!それどういう事だよ三蔵!!」
「この、無神経野郎!頭からマヨネーズでもかけてやろうか?」
「まぁ、お前みたいなまぬけ野郎には、それすらもったいないか?」
「いつだよ?誰とだよ?オレの知ってる奴がいんのか?」
「知りてーか、皆仲良く土の中だ!!」
「・・・・・えっ?」
「まだ、分かんねーのか?ミジンコ並みの知能だな」
「お前、それって・・・」
「オレに好き勝手した奴は、存在そのもの消してやるってんだ!」
「あの李影って男も神だかなんだか知らないが、必ずぶっ殺す!!」
「・・・・・」
「お前を、好きになっちまったら皆殺られちまうって云うのか?」
「そういうことだ」
「はは、・・・だったら、オレもじゃん」
「はぁ?なに寝ぼけた事云ってるんだ」
「その腐った口、二度と開かないようにセメンダインでも飲んでみるか?」
「三蔵!」



 悟浄は、真剣な眼差しで三蔵の名を呼ぶと、その身を抱きよせ押し倒し唇を貪った



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